温室効果ガス(GHG)排出量取引(2007年10月、竹内秀樹)

竹内秀樹が、温室効果ガス(GHG)排出量取引制度について検証・報告します。

カーボンオフセット

検証

温室効果ガス(GHF)の排出量取引(排出権)ビジネスのすそ野が広がりつつある。これまでは一部の大口需要家が排出量(排出権)を獲得するビジネスが中心だったが、自社の商品・サービスに排出権を組み込む試みが日本でも出てきた。企業や消費者が排出した二酸化炭素(CO2)の一部を、海外での省エネ投資や植林活動への協力によって相殺する「カーボンオフセット」がそれ。地球温暖化対策として「CO2ゼロ」をうたった商品・サービスは今後、相次ぎ登場する見通しで、新たな商機を見いだす動きも活発化している。

途上国での省エネ投資で埋め合わせ

2005年に英国で始まった「カーボンオフセット」。「オフセット」には「相殺」や「補う」の意味がある。英ブリティッシュ・エアウェイズなどは、運航により排出されるCO2の一部を、搭乗客が環境保護団体に寄付を行うことなどで相殺する制度を導入。また、2006年にドイツで開かれたサッカーW杯でも、運営委員会が期間中に排出したCO2を途上国での省エネ投資で埋め合わせたことで話題となった。

日本カーボンオフセット
末吉竹二郎

日本でも2007年9月に国内初のオフセット専門会社「日本カーボンオフセット」が発足した。国連環境計画・金融イニシアチブの特別顧問で同法人の理事を務める末吉竹二郎氏は「節電、節約以外の方法で地球温暖化防止に貢献したいと考える消費者は多いはず」と話す。「消費者と企業が一体となってCO2削減に取り組める仕組み作りが重要」と、CO2削減の新たな選択肢を提供する意義を強調する。

NTTデータ
温暖化対策コンサルティング

末吉氏と志を同じくするのがNTTデータ経営研究所社会・環境コンサルティング本部の大塚俊和シニアマネージャー。企業向けの温暖化対策コンサルティング業務を展開してきたNTTデータ経営研究所だが、カーボンオフセットに関する新規事業を立ち上げたばかり。

国連のルール
京都クレジット

彼らのビジネスモデルの共通点は、企業にCO2オフセット付き商品やサービスを提案し、必要なCO2量の算定から排出権(排出量)の調達まで、すべてを請け負う点。排出権(排出量)は国連のルールに基づく「京都クレジット」と呼ばれるものを活用し、オフセット相当分は日本政府に無償提供。国の京都議定書目標達成にも貢献する仕組みだ。

「リスクマネジメントだけで排出量の購入に踏み切る企業はまだ少ない。だが、カーボンオフセットは攻めのツールになる」。大塚シニアマネージャーは、排出権(排出量)を企業の商品戦略と結びつける意義をそう訴える。

カーボンオフセット寄付金付き年賀はがき

これまで市場投入されている排出権付き商品は、日本郵政の「カーボンオフセット寄付金付き年賀はがき」(料金の一部が環境団体に寄付される)や西友のエコバッグなどわずか。だがカーボンオフセットの趣旨に賛同する企業はすでに戦略商品の開発を進めており、2008年は「カーボンオフセット商品元年」となりそうだ。

環境省が専門の検討会

こうした商品を通じ、一般消費者のCO2削減への意識の高まりが期待される一方、オフセットは検証も重要だ。カーボンオフセット先進国の英国では、CO2削減分が2重にオフセットされているなど制度の信頼性を問われる事態も生じているという。環境省は専門の検討会を設置し、日本で普及させるための課題について議論を重ねている。

信託機能活用、金融機関も
地球温暖化対策推進法(温対法)改正

排出権活用の兆しは、金融機関のビジネスにも現れている。排出量が信託財産として扱えるようになった2006年の地球温暖化対策推進法(温対法)改正以降、各行は排出権ビジネスに乗り出している。信託機能を活用し、排出権を切り売りすれば、数千トン規模の小規模の排出権需要に応えられるためだ。さらに今年9月施行の金融商品取引法では、銀行や銀行子会社の排出権仲介に道を開いた。

三井住友銀行がブラジルの水力発電
森トラスト、大和証券、三菱東京UFJ銀行

日本カーボンオフセットが事業開始にあたり取得するのは、三井住友銀行がブラジルの水力発電プロジェクトから獲得した1万トン規模の排出権(排出量)。三井住友銀行はほかにも信託財産化した排出権を、森トラストなどに販売している。日本カーボンオフセットには大和証券グループや三菱東京UFJ銀行も参加企業に名を連ねており、商機拡大につなげるものとみられる。

日本は2008年から2012年までに1990年比6%削減義
京都議定書

一方で、日本政府や一部業界が依然、排出権(排出量)の大口需要家であることに変わりはない。その裏にあるのは先進国に温室効果ガス削減を義務づけた京都議定書。日本は2008年から2012年までの対象期間に1990年比6%削減しなければならないが、05年度は逆に7.8%増えてしまっている。

経団

現在、政府の「京都議定書目標達成計画」の見直しが進むが、現状のままでは2010年時点で最大3400万トンと見込まれる削減不足分をどう埋めるかが課題。政府は日本経団連が主導する業種別の温暖化対策である「自主行動計画」を厳格化し、各業界に目標引き上げを強く要請している。

電力、鉄鋼
化学やセメントなどの素材産業

こうしたなか、原子力発電の稼働率が低迷する電力や生産好調でCO2排出が増加傾向にある鉄鋼など、自助努力では目標達成が危ぶまれる業種は排出権の活用方針を早々に打ち出している。その結果、当初2010年度までに約3000万トンとしていた電力業界の排出権取得計画は2012年度までに1億2000万トンへと膨らんだ。今後、こうした動きは、化学やセメントなどエネルギー多消費の素材産業に広がる可能性がある。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて排出権

政府による排出権取得が本格化するのもこれからだ。2008年から2012年の議定書対象期間に温室効果ガスを1990年比6%削減する義務を負う日本は、省エネ対策や森林吸収だけでは不足が見込まれる1.6%分を排出権で穴埋めすることが認められている。このため今後5年間で、1億トン規模の排出権を確保しなければならない。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じ、これまでに契約を結んだ排出権(排出量)は約860万トン分。現時点での政府需要の1割足らずだ。

CO2削減事業

京都議定書のルールに基づく発行済みの排出量(排出権)は世界で約8000万トン。日本政府の総需要にも満たない。2012年までに25億トン規模が発行されると予測されているが、排出権を必要とするのは日本だけではない。日本政府の目標達成につながるCO2削減事業をいかに創造、開拓していくか。「獲得」から「活用」へと排出権ビジネスのすそ野を拡大する狙いは、まさにそこにある。

信託財産化して小口販売

排出権(排出量)の買い手のすそ野が広がっているのは事実だ。排出権を信託財産化して小口販売する手法が注目されるが、実は小規模需要に応えるには必ずしも信託だけではない。買い手の立場に立つと排出権の供給源そのものを押さえる戦略も重要だ。今後、世界では20億トン強の排出権が生まれると見込まれるが、需要は20億トンから30億トンとみられ、売り手市場が続くためだ。

CDM

途上国でクリーン開発メカニズム

途上国で実施する省エネ事業、クリーン開発メカニズム(CDM)は企業にとって事業リスクを伴う。だが最近は先進国側の参加者を決めず、途上国だけで事業を進めるCDM案件も増えている。こうした後追いで参加できる案件は、排出権の購入代金のみを支払えばよいため、リスクを軽減できる。日本企業にとって購入候補の1つといえるだろう。

排出権取引とは

国や企業が目標以上に二酸化炭素(CO2)抑制を実現したり、逆に目標数値に達しなかった場合、その目標超過分と不足分を取引すること。目標未達の国・企業は、目標を達成した国・企業から目標不足分を金銭で購入する。温室効果ガスの抑制を柔軟に行うのが狙い。京都議定書では、1990年当時の温室効果ガス排出量を基準に、2012年の排出上限量を定めている。

カーボンオフセットとは

排出した二酸化炭素(CO2)量を算出し、その量を吸収できるだけの環境保護活動(植林や森林保護など)を実施すれば、排出したCO2が相殺される仕組み。英ブリティッシュ・エアウェイズの場合は、搭乗客の寄付で植樹などを行い、航空機から発生するCO2を相殺するユニークな制度を実施している。寄付の額は、渡航距離によって決定する。