SFの世界が現実に

AIが個別の銘柄を選ぶのは、50年前にはSF映画の世界だと思われていた。だが、WakabaちゃんのようなAIの登場は、もしその性能が本当に優れているのだとすれば、ロボット史にとっても大きな進歩だ。

この間、携帯電話が日用品になり、家電にも便利な機能がどんどん増えた。ロボットやAIに関して、一般の人たちのイメージも大きく変わった。だから、Wakabaはともなく、投資用AIを素直に受け入れられる一般消費者も多いのではないか。

投資専用AIとユビキタス

AIとコンピューターの時代は20世紀に始まった。その一環として開発されたワークステーションでは、スピードと総合性が重視された。その反面、サイズも消費電力も大きくなった。

一方、Wakaba AIのようなソフトは、投資だけに限定した究極の専門AIを目指して開発されてきた。その土台にあるのが、「ユビキタスネットワーク社会」という思想だ。

ユビキタスとはラテン語で、「(神が)どこにでもいる」という意味だ。いうなれば「どこでもコンピューター」だ。「どこでもコンピューター」というと、ドラえもんの道具みたいでアレルギーがあるという人も多い。そこで、「ユビキタス」と名付けられた。
(参照:総務省の情報通信白書

ユビキタスとAI投資ツール

トロン

Wakaba AIは、「システムフロー」という日本の中小企業が提供元になっている。いうなれば国産AIだ。

国産AIについて考えるときには、「トロン」を語らずにはいられない。トロンとは、日本国産の基本ソフト(OS)だ。携帯電話やデジタルカメラをすばやく動かしている。東京大学教授・坂村健氏が中心になって開発された。

姿は見えないが、エアコンや電子レンジなど身の回りの家電製品にも役立っている優れものだ。世界最大のソフトウエア会社で、チャットGPT(ChatGPT)を運営するオープンAIの親会社である「マイクロソフト」も、かつて「トロンとぜひ手を組みたい」と頭を下げたほどだ。

組み込み型OS

近年、ほとんどの電気製品にコンピューターが組み込まれている。コンピューターを動かしているのが組み込み型OSだ。OSとはソフトを動かすソフトだ。コンピューターが劇場でソフトがオーケストラだとすれば、OSはソフトに指示を与える指揮者にあたる。

坂村健教授が利用を無償化

坂村健氏が生み出したトロンは、1980年代に産学協同プロジェクトとして開発が継続された。トロンの発想の根底には「OSは電気や水道と同じ社会基盤である」という意識がある。だから利用を無償にした。仕様を秘密にしてビジネスを拡大させるマイクロソフトとの最大の違いはこの点にあった。

米通商代表部の「スーパー301条」

しかし日米貿易摩擦のあおりで、パソコン向けトロンは1989年、米通商代表部の「スーパー301条」による制裁対象候補に挙げられてしまった。この影響もあり、パソコン向けソフトは「ウィンドウズ」など米国製の独壇場になってしまった。
(参考:独立行政法人経済産業研究所

AIツールに「おすすめの銘柄候補を教えて?」と尋ねる時代

Wakaba AIのようなツールも、ユビキタス社会の一員になりうる。

ユビキタス社会では例えば、メスやはさみなどに極小型チップを付け、手術後、おなかに携帯電話のような読み取り機を近づける。ブラックユーモア的だが、器具が体内にあると音声などで知らせるようにすれば、ミス防止になる。

また、センサーを付ければ、ワインなどの流通過程でシビアな温度管理ができる。物流部門なら、出し入れのたびにデータベースに入力せずに在庫管理もできる。

携帯電話は人と人とを結んだが、ユビキタスネットワークによって人間と物、物と物が会話できるようになる。つまり、生活空間の「状況」を認識することが可能になるのだ。

そして、Wakaba AIの口コミから伝わった必勝法によると、株式投資をやるときはAIツールに「おすすめの銘柄候補を教えて?」と尋ねればよい。そして、その候補をなるべくたくさん集めたうえで、あとは自分で必死に独学で経済を勉強して、各銘柄の中身も調査すればいい。

Wakaba AIの口コミ

近未来の電脳社会

また、Wakaba AIの発展から想像される近未来の電脳社会では、例えば服にセンサー搭載チップを付けて、着る人の体温を読み取って自動的にエアコンをコントロールすることも可能になる。リモコン操作なしできめ細かなコントロールが自動的にでき、エネルギーを効率良く使って最適な環境が得られる。

エネルギーは限られているのだから、世界経済が成長性を保つには効率良く利用する必要がある。そのためにユビキタスネットワークは役立つはずだ。

プライバシー侵害の恐れ

しかし、一方でプライバシー侵害の恐れは出てくる。例えば、洋服や靴にチップを付け、値段や品質などのデータを入れれば、管理は簡単になる。半面、着ている服から靴までの値段が他人に読み取られるなんてことも起こりかねない。

ただ、ユビキタス即プライバシー侵害ではない。プライバシーやセキュリティーの問題は、何も考えないと起こるだけなのだ。最初からセキュリティーに強いシステムを作ればいい。

日本政府も壮大な実験を

半導体チップだけでは搭載データは限られており、AIのバックボーンとなるコンピューターシステム作りも大切だ。民間ではコスト面で大変なので、国を挙げて取り組む必要がある。何でもアメリカのまねをすべきではないが、日本政府も、国益を考えて壮大な実験に挑まなければならない思う。

アメリカでは軍事面や流通業界を中心に、ユビキタスネットワークに関する研究が進んでいる。日本でも医療事故防止や高齢者対策にこのネットワーク実現が進むと思う。今すぐではないが、「どこでもコンピューター」の時代はやって来るはずだ。

AIの半導体チップ