地球温暖化ガス排出削減ニュース(2003年11月、大橋直久)

政府と国際協力銀行は、エジプトの風力発電所建設への円借款を、二酸化炭素(CO2)の排出権を取得する「クリーン開発メカニズム(CDM)」としてCDM理事会に登録を申請する方針を固めた。政府の途上国援助(ODA)を途上国の環境対策と同時に、日本の温室効果ガス削減の目標達成にも活用することをめざす。2国間の援助にCDMを適用するのは日本では初めての試み。政府などは今回の円借款が認定されれば、同様のプロジェクトを積極的に推進する方針だ。(大橋直久)

ODAでCO2排出権取得

エジプトに風力発電

政府は2003年10月に川口外相がエジプト訪問した際、紅海沿岸に約120メガワットの風力発電所を建設するため135億円の円借款の供与を決めた。2003年12月11日に国際協力銀行がエジプト政府と円借款契約を調印する。発電所は05年に着工し、2007年に完成する予定だ。

京都議定書の批准
国際協力銀行が円借款

円借款を実施する国際協力銀行は、今回の発電所建設で得られるCO2削減量を年間約27万トンと推定。途上国で実施した事業で削減された排出権を取得できるCDMの適用を検討し、エジプト政府と原則合意した。エジプト政府は04年の早い時期に地球温暖化防止のための京都議定書の批准をめざしており、批准後に日本政府が正式にプロジェクトを承認し、早ければ来年夏ごろにCDM理事会に登録を申請する。

途上国を中心に慎重意見

ODAをCDMに活用することについては、既存のODA資金が環境対策に振り分けられ、人道支援などが減らされるのではないか--といった懸念から、途上国を中心に慎重な意見もある。このため、2001年に定めた京都議定書の運用ルールには「CDMプロジェクトへの公的資金にODA資金を流用してはならない」と明記された。

外務省は「流用にあたらない」

ただ、この場合の「流用」については明確な定義がなく、日本政府は「既存のODA予算を削ってCDMに充てるのではなく、相手国との合意もあるプロジェクトなら、流用にはあたらない」(外務省)という見解を取っている。ヨーロッパの一部の国も温室効果ガス削減のためODAの活用策を検討していると言われる。一方、途上国や非政府組織(NGO)が異論を唱える可能性もあり、最終的にCDMと認定されるかどうかは不透明な要素も残っている。

クリーン開発メカニズム(CDM)とは

京都議定書に盛り込まれた「京都メカニズム」の一つ。先進国の政府や企業が温室効果ガス削減につながる事業を途上国で実施すれば、実現した削減分の一部をクレジット(債権)として得て、自国の削減に組み入れることができる。日本は08年から12年の温室効果ガス排出量を1990年比で6%削減することになっており、うち1.6%は京都メカニズムによる削減を想定。政府は2003年8月に改定したODA大綱で、地球温暖化防止に積極的に取り組む方針を掲げている。

京都議定書関連のニュース(2002年8月、大橋直久)

CO2排出権取引「京都メカニズム」中国など7か国と共同研究

環境サミットで政府が表明へ

2002年8月26日にヨハネスブルクで開幕する「持続可能な開発に関する世界首脳会議(環境開発サミット)」で、日本政府は他国の二酸化炭素(CO2)削減量(排出権)を自国削減分に繰り入れる「京都メカニズム」の活用を目指し、中国、インドなどアジア7か国と共同研究を始めると表明する。京都議定書が定める温室効果ガス削減義務を達成するには、京都メカニズムを活用したCO2削減事業を発掘し、海外から削減量を移転することが不可欠だからだ。

国内対策の不足分補う

日本が表明するのは、京都メカニズムの一つである「クリーン開発メカニズム」という手法を途上国で普及させるための教育プログラムだ。共同研究の対象国は、中国、インドのほか、インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシア、ベトナムの計7か国となる。

先進国が途上国に技術支援

クリーン開発メカニズムとは、先進国が途上国に技術支援して、CO2削減につながる事業を行い、削減出来た分を自国の削減量として換算できる仕組み。

職員を各国に派遣

途上国はCO2削減事業の整備が遅れているため、日本は職員を各国に派遣してモデル事業を共同研究したり、現地の政府職員らの研修なども実施する。一連の支援策を通じて、温暖化防止に向けた協力関係を築き、将来的に各国からの排出権獲得につなげたい考えだ。

カザフスタンの火力発電所

日本は2002年6月中旬、カザフスタンの火力発電所でCO2削減につながる技術協力を行い、削減量を日本の削減分に繰り入れる初めての契約を結んだ。

ロシア

ロシアからも同様の政府間契約を結びたいとの非公式の提案があり、政府内で検討に入っているが、アジア7か国での共同研究の着手は、削減量の移転を幅広く進めようという積極的な戦略をうかがわせる。

日本が海外からのCO2排出量の取得に力を入れるのは、このプログラムを活用しないと京都議定書の削減量の達成が難しいと判断しているためだ。

温室効果ガスを「1990年比平均6%削減」

議定書は2008年から2012年までの間に、温室効果ガスを「1990年比平均6%削減」を日本に義務付けている。2000年度ですでに8%増加しているため、実際は14%分の削減努力が必要になる計算になる。

CO2を吸収する植林により3.9%削減

政府計画では当面の目標となる6%削減のうち、CO2を吸収する植林により3.9%削減するほか、フロンの影響による増加を2%増とし、自動車など民間のエネルギー消費に伴うCO2の増加をゼロに抑える。

毎年1900万トンを海外から国内へ

一方、これらの対策で足りない1.6%分を海外からCO2排出権を購入するなど京都メカニズムの活用でまかなう。これは毎年1900万トンの二酸化炭素削減量を海外から国内に振り替えることを意味する。カザフとの協定では毎年6万トンを国内削減分に繰り入れる予定で、同様のプロジェクトを300実施しなければならない。

ただ、海外でCO2を削減するプロジェクトは多大な資金を必要とすることが難問になりそうだ。

CO2排出権の価格は、1トンあたり10ドル

CO2排出権の価格は、1トンあたり10ドル程度で取引される見通しで、排出量取引を活用する場合、1900万トン分だと約230億円が必要だ。相場次第では一段と高水準の取引も想定される。

石油特別会計、電源立地促進特別会計

経済産業省では、石油特別会計、電源立地促進特別会計など「エネルギー特定財源」を使って京都メカニズム実施に使う案も浮上しているものの、政府内の調整はまだ行われていない。排出量を買うための資金の手当てが今後の焦点だ。

COP4で地球温暖化防止 問題浮き彫りに(1998年11月、大橋直久)

大橋直久が、COP4での地球温暖化防止策の議論について考えます。

「排出権」巡る思惑 本来の目的とズレ

 アルゼンチンで開かれた地球温暖化防止を目指す気候変動枠組み条約第四回締約国会議(COP4)は今月中旬閉幕したが、問題先送りという評価が目立つ。昨年末の京都会議で炭酸ガスなどの温暖化ガスの目標が決まり、今回は、さらにこれに弾みがかかるという期待感から見れば、確かに低調といえるのかもしれない。しかし、一方でようやく問題のありかが鮮明になってきた意味の大きな会議という評価もあることも事実だ。排出権を巡る先進国間の思惑の錯そう、それに先進国・途上国間の対立と亀裂といった側面が浮かび上がり、削減という総論に対し、具体化という各論が立ちはだかってきた形といえよう。COP4(ブエノスアイレス会議)以後、この問題が国際的にどう展開しようとしているのかを考えてみた。  

理想と現実 大きな開き

 

一年前の京都会議の会場で削減目標決定を聞きながら、今年一九九八年は具体的な行動への第一歩の年になるだろうと単純に予想した。これは温暖化防止はもはや、あれこれの議論の段階は終わり、削減目標達成のために、何を実行するかの段階だという会場全体を覆う熱気からの当然の受け止め方だったように思う。

 その後、約一年。確かに京都合意に向けた動きがなかったわけではないが、一時の興奮が去り、実現には相当の痛みが伴い、関係国でも声高に叫ばれる理想と現実には大きな開きがあることが浮き彫りとなったのが今回の会議の結果だったといえよう。

 その一つの問題が先進国間の排出権取引を巡るアメリカとEU(欧州連合)の対立だった。両者は日本を含め、排出権取引を認めているのだが、アメリカがこの問題を大部分、この方法で解決してしまおうという排出権取引至上主義であるのに対し、EUはこれに反発、アメリカも一定の削減を実現せよという立場に立つ。

 この問題は単純ではない。そのメカニズムには倫理的な問題も絡む。アメリカはマーケット(市場)の原理での問題解決がもっとも実行性、透明性が高いと考えている。簡単にいえば、温暖化ガスをいかに出そうとその分(排出権)を金で買えばいいということになる。合理的だが、問題も出てくる。

 

「国際市場」創設構想

 

今、最も排出権問題で注目されるのはロシアだ。ロシアの京都合意による削減目標は九〇年レベル凍結。ところが現在のロシアの排出量はその約30%マイナス。経済混乱からエネルギー使用量が減少したためで、ロシアは巨大な排出権という先進国向け「商品」を手にする結果になってしまっている。

 経済が立ち直れば直ちに消え去る頼りない商品ではあるが、目下のところ、ロシアにとってはたなぼたの「商品」であることに間違いはない。「ホット・エアー」、さしずめ「話題集中の空気」ということで注目されている。ロシアの経済が混乱を加速すれば、ロシアはさらに多くのホット・エアーを手にするわけで、何とも奇妙な事態となる。

 こうしたことの反映なのだろう。途上国である中央アジアのカザフスタンがこの面での先進国入りの名乗りを上げている。ロシアの基準でいけば同国にも、“排出権商品”が転がり込んでくるからだという。こんな動きが広がれば、地球温暖化問題がその目標とはそれて来てしまう。

 しかし、ロシアの分でアメリカの削減目標が達成されるわけではない。ロシアの排出権を全量アメリカが買ったとしても、目標達成には不足する。アメリカには、排出権国際市場ともいうべきマーケットが必要で、多国間の「排出権市場創設」の構想があるようだ。排出権を市況商品のように考え、その市場で随時取引して自国の温暖化対策に役立てるだけでなく、一種の環境ブローカーとして、市場メカニズムによって「環境支配」をもくろんでいるという見方さえある。金融支配の環境版ということができるのかもしれない。

 EUの反対する大きな背景もここにあるとされるが、そのEUにも矛盾がある。EUは目標達成にもっとも楽観的とされるが、それは目標を加盟国全体で達成するためで、ここではすでに実質的な排出権取引が行われているということもできる。“売り手”はイギリスとドイツ。イギリスは北海油田からの天然ガス活用、ドイツは旧東ドイツの燃料効率化で「排出余力」が生まれる。これを達成困難な加盟国に分配する。売買はないが、メカニズムとしては、排出権取引と変わらない。

 アメリカとしては、この政治的な排出権取引を普通のマーケットに引きずりだそうということだろう。

 日本の立場は微妙だ。日本は削減目標6%のうち、1・8%を排出権取引などの国際的な枠組みを活用して削減する方針。この国際枠組みは排出権取引だけではないが、原子力立地などが難航すれば一定量を排出権取引に依存せざるを得ない。このためEUの集団解決に疑問を持ち、市場の必要性を認めつつも、一方でアメリカの方針にも不安感を残しているというところだ。

 

一枚岩ではない途上国

 

排出権市場は、ある試算によれば簡単に十兆円前後の規模になるとされ、ブローカーなどによって、これが必ずしも環境問題とは無関係という場で成立してしまうということは何を意味するのか。十分な検討が必要になるだろう。

 先進国と途上国間のいわゆる南北問題も問題がはっきりしてきた。わが国など先進国の一部が主張している政府開発援助(ODA)による国内環境問題対策には拒否の姿勢だ。環境援助によって、これまでの援助が削減されることを問題視している。

 一方でCOP4を主催したアルゼンチンが自主的に削減措置に前向きの姿勢を示したように、一部途上国に「環境問題は先進国の責任」という姿勢を変え始めてきたことも事実だ。このため途上国も一枚岩ではなくなったと評価されるが、逆に産油国は先進国の石油関連税に対し、その税は本来、生産国の所得という主張を厳しく展開し始めてきている。炭素税が先進国間で国際的な潮流になりつつあるが、産油国はその分の石油値上げを真剣に模索し始めているとされ、これを無視できない不気味な動きととらえる専門家も少なくない。「環境問題が誘発した新たな石油危機の兆し」という声さえ聞かれる。

 アメリカの市場主義、そしてEUバブルという言葉まで持つEUのいわば混合主義、そして途上国の先進国責任主義と大きな色分けはこうなるが、わが国はこうしたはざまにあって、目下、地道に目標達成への努力を重ねている。

 国際的な批判の的になることを恐れ、通産省、環境庁を中心にした「平時に石油危機並み」といっていい省エネ対策などを進めつつあるが、日本は経済活動に使うエネルギー消費(GDP=国内総生産あたり一次エネルギー消費)はすでに世界最小の省エネ国家となっており、今後、環境問題が日本経済にとって重圧となりかねない。

 しかし、単に実直にこの目標達成への努力を重ねているだけでは、複雑な国際的な奔流にのみ込まれてしまうだろう。COP5を経て二〇〇〇年のCOP6で、様々な枠組みが最終決定となる。わが国はこの動きに合わせてもっと攻めの環境外交を展開するべきだろう。

 

熱効率

「40%の壁」破れず、途上国技術支援も課題

 炭酸ガスを中心とする地球温暖化ガスを削減すると簡単にいってしまうが、エネルギー産業、とりわけ電力業界にとってはコンマ以下への追求が求められることになる。

 そのひとつの課題が熱効率の改善だ。火力発電では石油、液化天然ガス(LNG)、石炭が燃やされて蒸気が作られ、この蒸気がタービンを回して発電する。だが、その時に発生する熱エネルギーは全部が電力に変わるわけではない。多くの熱は放出されてしまうのが現実だ。ということは、可能な限り燃料を有効に使うことは、それだけ温暖化ガスの排出を削減することにもつながるわけだ。

 これが熱効率の改善だ。そのエース的な存在がコンバインドサイクル(CC)と言われる発電方式。このコンバインドサイクルは簡単にいえば従来の蒸気発電とジェットエンジンのようなガスタービンによる発電を組み合わせたもの。

 このCCも今では改良型(ACC)といわれる段階に達し、さらに近い将来、これにMost(=最大級)を付けたMACCというレベルに達しようとしている。熱効率はACCレベルで49-50%が達成されており、MACCが実現すればさらに53%にもなることが期待されている。

 これは熱効率改善の第二次革命といっていいかもしれない。ちょっと昔を振り返ってみるとそれが分かる。戦後の間もない一九五一年(昭和二十六)ごろ、日本の火力発電所の熱効率は何と16%にとどまっていた。当時の燃料は石炭だが、この石炭を一〇〇燃やしても一六の電気にしかならなかった。つまり八四の熱は無駄になっていたということになる。電気はぜいたく品だったということができるかもしれない。

 今の火力発電所ではほとんど煙らしい煙を見ることなどできない。ところが当時は燃料が石炭であったこともあり、火力発電といえば、煙突からでるもくもくと立ちのぼる煙が連想されたが、これもこの熱効率の悪さの結果だったともいえる。

 しかし、それだけに改善も急速だった。経済成長に合わせての技術の進歩、設備の改善。それに燃料が石炭から石油に転換されるという革命的な展開で、熱効率は目をみはる改善を示すことになる。昭和三十年代は20%を突破して30%台。さらに昭和四十五年には四割に迫る38%が達成される。「無駄」が62%にまで減ったということでもある。

 しかし、ここで厚い壁に突き当たる。限界ともいえる熱効率40%の壁だ。平成九年度には実に39・7%と限りなく40%に近付くのだが、突き破ることはできなかった。コンマ以下の戦いが続く。それも約三十年という長期間にわたる。

 ただ、これはあくまで平均の話。個別火力発電ベースでは、発電量百万キロ・ワットを超す規模の大きなところでは昭和五十年ごろから41%程度が実現してはいたのだが、それにしてもこのあたりが限界であることには変わりなかった。CCはこうした状況から生まれたわけである。

 たかが熱効率というかもしれない。しかし、東京電力の場合だけで、1%の改善は重油換算で年間七十万トンの節約となる。環境にとって重要であることはいうまでもないが、節約される燃料費は約百三十億円となる。

 途上国の火力発電の熱効率はその多くが戦後の日本のレベルにあるとされている。こうした面での技術協力が温暖化問題のひとつのカギを握っているということも間違いない。

京都会議で決まった三つの温暖化ガス削減策(1998年11月、大橋直久)

 

排出権取引

京都議定書で決まった排出枠を国際的に売り買いする制度。日本も目標達成のために、余力のある国からこれを買う方針でいる。売り買いは先進国間に限られる。

   

共同実施

先進国がほかの先進国で、省エネなどに有効なプロジェクトを展開した場合などに、それによる削減分の一部を譲り受けることができる制度。日本の場合、ロシアへの協力などが対象として考えられている。

   

クリーン開発メカニズム

 

先進国が途上国で省エネなどの温暖化ガスの削減につながる経済協力をした場合、それによる削減分の一部を譲り受けることのできる制度。